5分と座っていられない子どもは心配いらない?脳の発達に合わせた自律性と理性の育ち方

タイピングの練習をする男の子

はじめに

5分もじっと座っていられない…

うちの子は落ち着きがなくて、すぐに立ち歩いてしまう…

子どものこうした姿を見て、つい叱ってしまったり、心配になってしまう親御さんや教師は多いのではないでしょうか。

特に幼児期の子どもは、まだ自制心や集中力が十分に発達しておらず、自分で行動をコントロールするのが難しいものです。

しかし、実はこれはごく自然な姿と言えます。

なぜなら、自分をコントロールする「自律性」や「理性」は、脳の発達とともに徐々に身についていくものだからです。

今回は子どもの落ち着き自律性にまつわる脳の発達メカニズムと、

何歳くらいから理性をもって自己コントロールができるようになるのか

という目安について掘り下げてみます。


1. 幼児期にじっと座っていられないのは普通のこと?

幼児期(3~5歳頃)の子どもを見ていると、食事中にもすぐ席を立ったり、塗り絵やおもちゃで遊んでいても数分で飽きてしまったり……。

「落ち着きがない」と思われがちですが、これ自体はごく自然な状態です。

  • 好奇心が旺盛
    幼児は周囲の環境や物事に対する好奇心が高く、あれこれと行動を移り変えたい欲求が強いです。興味を引くものが目に入ると、そちらへ注意が移るのは当然とも言えます。
  • 脳の前頭前野がまだ未熟
    自律性や集中力、理性を司る「前頭前野(ぜんとうぜんや)」は、幼児期にはまだ十分に発達していません。特に3~5歳では、衝動を抑えてじっと座っているのが難しいのは当然です。
  • 体を動かすことで学習する
    幼児は五感や全身運動を通して世界を理解する時期です。長時間同じ場所に留まるより、動き回りながら学ぶことで多くの刺激を得ています。

したがって、「うちの子は落ち着きがないからダメだ」と否定するのではなく、子どもは今、発達のプロセスの中にいるという視点を持つことが大切です。


2. 自分をコントロールする力はいつから育つのか

では、子どもは何歳くらいから「自分をコントロールできる力」を持ち始めるのでしょうか。

(1)前頭前野の発達

子どもの脳は、生まれてから思春期にかけて急激に発達しますが、特に理性や自制心、計画性、集中力をつかさどる前頭前野は6~7歳頃から急速に成長し、小学校低学年くらいから少しずつ「落ち着いて座っていられる」「考えて行動できる」などの変化が見られ始めると言われます。

一説によると、前頭前野の成熟は25歳頃まで続くとも言われ、完全に大人と同じようなコントロール力を手に入れるには、思春期を超え、さらに青年期後半まで時間がかかることも珍しくありません。

(2)幼児期~小学校低学年:少しずつ座れるようになる

日本では、小学校に入学する6~7歳から授業が45分単位となり、子どもは「ある程度じっと座って話を聞く」ことを求められます。実際には、全員が最初から45分集中するのは難しいものの、1年生後半あたりから徐々に座れる時間が伸び、2年生・3年生にかけて20~30分程度の集中が可能になっていくケースが多いです。

(3)思春期以降:自律性が加速

思春期(12歳前後~)に入ると、アイデンティティの確立や社会的欲求が強まる一方、
前頭前野の発達も進んで自分の感情や行動を調整しやすくなると言われています。

ただし、ホルモンバランスや心理的変化が激しい時期でもあるため、一時的に衝動的な行動が増えたり、親への反抗が高まったりすることもあります。

その後、青年期後半(高校生~大学生頃)にかけて、社会性や自己コントロール能力がさらに洗練されていきます。


3. 親や教師ができるサポート

(1)叱るより、肯定的な声かけを

「どうして座ってられないの!」と叱るだけでは、子どもは「自分はダメだ」という認識しか得られません。

むしろ「5分座れたね、すごいね。次はもう少しやってみようか」と肯定的にフィードバックしてあげると、
子どもは「自分は少しずつできるようになっている」と自信を持てます。

(2)短い集中タイムを区切ってあげる

幼児や小学校低学年の子には、25分の集中+5分の休憩といったポモドーロ・テクニックの応用をするなど、短いサイクルで達成感を得られるように工夫すると効果的です。最初は5分でも構いません。

(3)動いて学ぶ選択肢も用意する

じっと座るだけでなく、体を使った遊びやアクティビティを勉強に組み込むことで、子どもの好奇心と学習を両立させる手段もあります。幼児期には尚更、五感や運動を通じた学びが脳の成長に有効です。

(4)視点を変えて「成長の証」と捉える

「じっとできない=問題」と捉えがちですが、興味があるものにすぐ動くのは、ある意味で好奇心と活力の現れでもあります。脳の発達が進めば、自然と自制心や集中力が追いついてくる可能性が高いのです。


4. 5分と座っていられない子への理解

  • 6~7歳頃までは仕方ない面が大きい
    子どもの脳が自律性や理性を獲得し始めるのは小学校低学年から。幼児期はどうしても落ち着かないのは当たり前だと考えた方が、親も子どももストレスが少なくなります。
  • 強制よりも、少しずつ成功体験を重ねる
    全く座れない子に「一度に30分座らせる」のではなく、まずは「5分」を目標に設定し、できたら褒める。そうした短い達成を積むうちに、徐々に持続時間が伸びていきます。
  • 外部要因もある
    眠気や空腹、体調不良などで集中できない場合もあるので、環境を整える(睡眠時間を十分にとる、適度に休憩を挟むなど)ことが大事です。

5. おわりに:親や教師は「待つ」姿勢も大切

人間の脳は、先天的な部分もあれば、環境や学習経験による後天的な成長も大きいです。

子どもがまだ5分も座っていられない時期に、厳しく叱ってしまうと自己肯定感を失う恐れがあります。

しかし、成長を待ちながら、少しずつ「座る経験」「集中する経験」を積ませていけば、脳の発達に伴って不思議なくらいスムーズに落ち着いてくるケースも多いのです。

「自律性」や「理性」を獲得するのは一夜にして成るわけではなく、小学校低学年~思春期にかけて段階的に身につくもの。その間、親や教師ができる最善のアプローチは、否定や強制ではなく、子どもの発達段階を理解し、肯定的に声をかけ、成功体験を重ねさせることです。

もし子どもがなかなか座っていられず、「うちの子は大丈夫かな?」と心配になったら、まずは「それが当たり前の時期なのかもしれない」と考えてみてください。

そのうえで、無理のない範囲で習慣づくりを助けたり、日々の暮らしを整えたりしていくことが、子どもにとって最良のサポートとなります。

子どもの脳と心はまだまだ発展途上。長い目で見て、成長を待つ姿勢こそが、将来的に「5分以上どころか、30分、1時間と集中して学べる子」に変わる土台となるのです。

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